タントリズム=密教における曼荼羅 マンダラの観想法

◎イメージする瞑想=観想法

仏教における瞑想は、大きく「止」と「観」に分けられ、この二つを合わせて「止観」と言います。

止(śamatha/シャマタ/サマタ)は、一点の対象に意識を定めて心を静める瞑想。禅定。
観(vipaśyanā/ヴィパシュヤナー/ヴィパッサナー)は、対象に向けて動いている感覚に気付く瞑想。智慧。

「観」のひとつである観想法は、特定のものを心に思い浮かべてイメージする瞑想です。
密教では、サンスクリット語の「阿」の文字を観想する「阿字観(あじかん)」や、満月を模した白い円を観想する「月輪観(がちりんかん)」などがあります。

 

◎タントリズムの儀礼としての観想法(サーダナ、成就法)

仏教タントリズムが確立された、いわゆる「行タントラ」の時代には、仏塔や仏像への供養を重視するようになり、その儀礼内容も多様になっていきました。その多様化の中で生まれた実践法のひとつが観想法(サーダナ、成就法)です。

このタントラの実践方法はイメージを伴う瞑想法=観想法であり、観想する対象に向けて精神集中し、それによって生じてくる対象のイメージを心身に沁み込ませるという瞑想法です。

こうした観想法は、仏などの諸尊に供養を与える行法の中で行われるもので、目の前に仏や菩薩が実在する者のように現れる、すなわち「聖性顕現」のヴィジョンを得る為の行法と言えます。

 

◎曼荼羅(マンダラ)を使った観想

具体的な観想法としては、先に挙げた「阿字観」や「月輪観」のほか、マンダラを使った観想法もしばしば行われます。

行者は目の前の壁などマンダラを掛けてその前に坐ります。まず、静かにマンダラを見てから、目を閉じて心の中にマンダラを描き、マンダラの中に描かれた仏や神を観想し、それと一体となります。さらには、一体となっているという意識さえも消えるところに到達するのです。

つまり、曼荼羅(マンダラ)は仏教タントリズムの儀礼において、さらにはタントラの実践において、その行法を効果的に行うための重要な装置であり有効なツールであると言えるでしょう。

 

◎タントラの実践における「視覚」の重要性

一般的に宗教儀礼や修行法においては音やリズム、音楽などの聴覚的な要素が多分に用いられ、参加者や行者らを目指すところへと導くのに役立つとされていますが、タントリズムにおいても同様に音やリズムが大きな役割を果たしています。

さらに、仏教タントリズムに限らず、タントリズムの儀礼や実践においては、聴覚に加えて、諸感覚の中のでもとりわけ「視覚」が有効に働き、視覚によって捉えられるような曼荼羅をはじめとした図や像が重要となります。これは宗教一般の特徴ではなく、タントリズムに特有な性質と考えられます。

視覚という感覚と、それを引き継ぐイメージの力によって、行者など実践者たちは仏や神々の姿を眼前に顕現させて、鮮明に思い描くことが出来たからこそ、多くの曼荼羅が密教法具として用いられるようになり、ひいてはマンダラを使った観想といった儀礼や実践法が可能となったのです。

 

参考:「マンダラ観想と密教思想」(立川武蔵 著/春秋社)